前例がないほど猛暑が続く2023年夏。
あまりに暑く、日中は釣りに行くのを躊躇するような日々が続いているが、そんな中だからこそ綺麗な魚がいる、涼しく美しい渓を目指したくなるのがネイティブアングラーというものだろう。
今回の記事ではテスト釣行などで得られた釣果から、特にイワナについてまとめてみようと思う。
2023年は暑い日が続く反面、まとまった雨が降ることが少なく渇水傾向が強い河川が多い状態だった。
そんな河川の状況や涼を求める釣行タイミング設定も相まって、今年はヤマメ・アマゴの生息エリアより、イワナが生息するような源流域での釣行が多くなり、おかげで地域特有の多くのイワナと出会うことになった。
本州には大別して4種類のイワナが生息している。東北地方に生息しているエゾイワナ、関東を中心に日本全国に分布するニッコウイワナ、中部地方の一部に生息するヤマトイワナ、山陰地方に生息するゴギの4種類だ。
今年の夏、ターゲットになったのはニッコウイワナ、ヤマトイワナ、ゴギの3種類。
イワナは同種でも、一本隣に沢を変えるだけで模様のパターンや発色が全く異なる。それぞれの地域や河川で個性的な魚を釣ることができるのはイワナの大きな魅力だと感じている。
山梨県釜無川水系のニッコウイワナ
アグレッシブにルアーを追ってくれるのもイワナの魅力だろう。
ヤマメやアマゴはルアーを追う追わないがタイミングによって全然違ったり、激しくチェイスするものの食い損なうと二度目がなかったり、まぁツンデレで気難しい魚(そこが魅力でもあるが…)。
その点、イワナは足元までチェイスしてきて目があって逃げた魚も、逃げた先にキャストすると一発で激しく喰ったりする釣り人に優しい可愛い魚である。
遡行途中で出会ったモリアオガエル。天然記念物とされている地方もある。
綺麗なイワナを釣るにあたっては深山深くまで入り込まなければならない。この点はメリットとデメリットが共存する。
大きなメリットは日常では出会えない自然とふれあうことができること。季節によって中々見ることのできない貴重な生物や草花を見ることができたり、採取可能な場所であれば美味しい山菜や山葵などを食べることもできる。釣りを通して人生が豊かになる瞬間である。
デメリットは危険生物との遭遇や悪路での怪我など、身体を脅かすリスクと隣合わせであることに尽きる。
源流域に入り込むほど熊と遭遇してしまう可能性は上がるし、入渓脱渓時の滑落などのリスクも高まる。転ぶリスクや植物等での怪我の可能性もあるため、しっかりとしたギアの選択と入念な準備は必須。
落石の危険性がある急角度の沢跡を下降。先行者への落石の声かけなども重要。
特に源流域深くまで入り込まなければ原種に近い綺麗な魚を釣ることが難しいのはヤマトイワナ。
ヤマトイワナの模様は朱点のみ。白点と背中の紋様が無いため少しのっぺりした印象を受ける。
木曽川水系のヤマトイワナ。
私が頻繁に訪れる木曽川水系などでは、ヤマトイワナを保護しようという活動も活発に行われている。放流も行われているが同時にニッコウイワナとの混血種が多くなっており、かなりの源流域までいかないと原種に近い魚を見ることが難しかった。
今年も木曽川水系を中心に複数回ヤマトイワナを狙いに行ったが、お手軽なエリアでは混血種が目立ち、ニッコウイワナの魚影が濃かった。白点の出ていない綺麗なヤマトイワナを狙うのであれば、水量などのコンディションを見極めながら遡行し源流域の枝沢等を狙うのがベターだと思う。
登山に近いような長い時間山を登り、急峻な川を遡行した先で出会えたヤマトイワナは美しさも喜びもひとしおであった。
流れの強いエリア故の精悍な顔つきのヤマトイワナ
中部地方に根付くヤマトイワナと同様に山陰地方にのみ生息しているのがゴギである。
ニッコウイワナに似ているが背中の紋様が頭部まで広がっており、虫食い模様になっているのが最大の特徴。
鳥取県のゴギ
ヤマトイワナと同様ニッコウイワナと交雑が進んでおり、明確にゴギと言える魚を釣るのは難しい。
頭部の虫食い紋様がハッキリとしたイワナを釣るためには、ニッコウイワナと同様に深い源流域や堰堤で隔絶された沢などを探る必要がある。
鳥取や島根では頭部に虫食い模様のあるイワナが多い。
また、ニッコウイワナには紋様や発色で振り分けられるご当地イワナも存在する。
金色の発色が強いイワナ。橙の斑点も美しかったが写真では表現できず…
奥秩父の深くで釣れる朱点が多く金色のイワナは「秩父イワナ」と言われている。
他種イワナの放流で在来と言える個体はかなり減少しているらしく、相当な源流域でのみ釣れる魚になっている。
この個体はそれほど源流では無い沢のどん詰まりで偶然釣れた魚。経験的にも秩父イワナと断言することは難しいがおそらく在来の血が濃い個体だと予測。
渓泊が必要なぐらい奥地まで行くと、より大型で綺麗な魚も見ることができるとのこと。釣り場まではかなりきつい道中になりそうだがぜひ本格的に挑戦してみたい魚だ。
他に見ないほど赤〜オレンジの発色が強いのが大山イワナの特徴
鳥取県の独立峰大山由来の河川に生息する大山(だいせん)イワナは驚くほど赤い魚だった。
反転した瞬間に赤く見えるほど、朱、橙、黄色などの色がハッキリしている。
特にヒレなどの末端は縁取り以外はほぼ暖色に染まっており、他では見られない美しい魚体である。
各地のイワナを釣ってきたがここまで発色のいいイワナはいなかった。
秩父イワナのように奥深くに行けば行くほど釣れるというわけでは無く、釣り上がる中で突如混ざるイメージだ。鳥取県は総じて魚影が濃いため、楽しみながら釣り上がっていくとご褒美的に綺麗な大山イワナが釣れてくれる。
同エリアで釣れるイワナを観察中
同じエリアで釣れるイワナは暖色が強く無くても、ヒレの縁取り面積が広い魚が多い。
開いた場所で釣れる個体は体色は白いがヒレのみオレンジというケースが多いと感じている。
フックメーカースタッフとして少しフックセレクトにも触れておきたい。
前述の通り、イワナはルアーをアグレッシブに追ってくることが多い。
アプローチさえ上手く行けば、釣りたいルアーやタックルで楽しむことができる。
元来シングルフック派の私であるが今年はテストも多数あり、トラブルが増えるボサ周り等はシングルフック、比較的開けたエリアではトレブルフックというようにフックを使い分けることが多かった。
源流域では小型のイワナのアグレッシブなバイトも多い。トレブルは目周りなどに刺さることも多く、魚のダメージが大きくなってしまうケースもしばしばある。
現在開発中の細軸トレブルDT-25Fは掛かりとバラしにくさ、針の外しやすさのバランスが良く、魚体へのダメージもかなり抑えられる製品に仕上がっている。
上: 開発中のDT-25F 下: DT-35F 同サイズでも細軸化だけで無くバーブの位置などを調整している
今年は猛暑に加えて渇水の中では追い切らないショートバイトも多く細軸トレブルDT-25Fが活躍した。
小型魚でも過度にダメージを与えることも無く、目やエラに深刻なダメージを与えることがほとんどなかったのは特筆すべき点だ。
長引く猛暑や予測できない豪雨で釣りがままならないこともしばしばある昨今であるが、多くのアングラーが長く釣りを楽しめるよう今後も現場から、人にも魚にも優しい製品を生み出していきたいと思う。